2023年02月22日 (水)
高橋悠治氏のサイト『水牛』(http://suigyu.com/)の
「2023年02月」(水牛のように)コーナーに、
「堺公演でのスリンピ完全版上演によせて」を寄稿しました。
本記事 https://suigyu.com/2023/02#post-8770
冨岡三智バックナンバー https://suigyu.com/category/noyouni/michi_tomioka
堺公演でのスリンピ完全版上演によせて
冨岡三智
2021年度に引き続き2022年度(2023年3月)も堺市で公演をすることになり、いま追い込み中である。また、3月の公演にタイミングを合わせて2021年公演の公演映像をyoutubeで無料公開した。というわけで、今回はその両者の宣伝も兼ねての記事。
***
どちらの公演も、第2部の演目はスリンピの完全版1曲のみ。これで大体50分である。前回は「スリンピ・ロボン」、今回は「スリンピ・スカルセ」を上演する。私は実はスラカルタ宮廷舞踊全曲(ブドヨ2曲、スリンピ10曲)を完全版で上演したいという野望を密かに持っている。この3月の公演で、ブドヨ1曲、スリンピ5曲…やっと半分だ。もっとも、スカルセは2011年にジャカルタのGelar社が記録映像を製作した時に私が指導して踊っているし、2012年には豪華客船「ぱしふぃっく・びいなす」号の船上で上演したから、実は3月で3回目。しかし、前の2回は録音を使用したので、生演奏で上演するのは今度が初めてになる。
スラカルタでは1970年に宮廷舞踊が一般に解禁されて以来、短縮版が作られてきた。宮廷舞踊はだいたい約1時間かかるので、それを1/4(約15分)か1/2(約30分)に短縮する。けれど、短縮するとどうしても辻褄が合いにくいところが出てくる。また、他人の手になる短縮版だと、その手法に賛同できない場合がある。というわけで、振付として納得できる完全版をきちんと上演したいと思うのだ。また、1時間かけて踊ることによって得られる没入の感覚というか三昧の境地は15分や30分の上演からは得られるものではない。ほとんど完全版で上演する人がいないからこそ、私は完全版で上演し続けたいなと思っている。
***
3月に上演する「スリンピ・スカルセ」は私がジョコ女史から初めて習った完全版の宮廷舞踊曲で、思い入れが深い。ペロッグ音階ヌム調の音楽は瞑想的で、これを聞くと一気に雨季の夕方にレッスンをしていた頃の自分を思い出す。この曲にはレイエという動きが多い。レイエは辞書によると「(建物が)崩壊する」という意味で、倒壊していくように上体を折り、再び反対側に揺れ戻るような動きだ。大きな波のような動きにも見える。この曲には多く、またレイエではないが似たような動きも多いから、集中していないと動きが分からなくなることがある。私がスリンピに使われる動きで一番好きなのがこのレイエで、こんな動きを昔の宮廷人はなぜ思いついたのだろうか…と不思議に感じる。
「スカルセ」特有の部分はシルップにある。シルップは2人ずつ組になって戦う場面の後、負けた方が座る場面のこと。火山が鎮火している状態をシルップと言うように、音楽の音量も静かになる。このシルップの場面で、勝った方が衛星のように回転しながら負けた方の周囲を巡るのが美しい。ジョコ女史は自身が振り付けた「クスモ・アジ」という舞踊の中で、コモジョヨとコモラティという男女の神が廻るシーンでこの動きを使っていたし、スリスティヨ・ティルトクスモ氏の作品「キロノ・ラティ」でも、シルップのシーンで使われている。また、スラカルタ王家のムルティア王女が、父王パク・ブウォノXII世の80歳の記念式典のために振り付け、9人の王女で上演したブドヨ作品にも取り入れられている。実は、古典曲の中で魅力的な動きほど新作で使われることが多く、「スカルセ」のシルップ場面はそれくらい魅力的なので、実際に見ていただけたらなあ…と思っている。というわけで、堺までどうぞご来場ください!
●2023年3月11日、フェニーチェ堺・小ホール
『幻視 in 堺ー南海からの贈り物ー』公演
第1幕:
音楽「夜霧の私」(山崎晃男作曲): 静かな音がジャワへといざなう…
音楽「ババル・ラヤル」: 青銅打楽器の音色が力強く響く宮廷儀礼の曲
音楽「ガドゥン・ムラティ」: 柔らかい音色の楽器と歌から成る霊力のある曲
※ スラカルタ王家の儀礼映像(Dr.IGP Wiranegara,M.Sn)の上映と共に
第2幕:
宮廷舞踊「スリンピ・スカルセ」完全版
詳細➡ http://javanesedance.blog69.fc2.com/blog-entry-1095.html
***
●2021年10月23日、堺能楽会館
『幻視 in 堺 ―能舞台に舞うジャワの夢―』公演
映像記録➡ https://www.youtube.com/watch?v=1Q4kTQbxwVE
「2023年02月」(水牛のように)コーナーに、
「堺公演でのスリンピ完全版上演によせて」を寄稿しました。
本記事 https://suigyu.com/2023/02#post-8770
冨岡三智バックナンバー https://suigyu.com/category/noyouni/michi_tomioka
堺公演でのスリンピ完全版上演によせて
冨岡三智
2021年度に引き続き2022年度(2023年3月)も堺市で公演をすることになり、いま追い込み中である。また、3月の公演にタイミングを合わせて2021年公演の公演映像をyoutubeで無料公開した。というわけで、今回はその両者の宣伝も兼ねての記事。
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どちらの公演も、第2部の演目はスリンピの完全版1曲のみ。これで大体50分である。前回は「スリンピ・ロボン」、今回は「スリンピ・スカルセ」を上演する。私は実はスラカルタ宮廷舞踊全曲(ブドヨ2曲、スリンピ10曲)を完全版で上演したいという野望を密かに持っている。この3月の公演で、ブドヨ1曲、スリンピ5曲…やっと半分だ。もっとも、スカルセは2011年にジャカルタのGelar社が記録映像を製作した時に私が指導して踊っているし、2012年には豪華客船「ぱしふぃっく・びいなす」号の船上で上演したから、実は3月で3回目。しかし、前の2回は録音を使用したので、生演奏で上演するのは今度が初めてになる。
スラカルタでは1970年に宮廷舞踊が一般に解禁されて以来、短縮版が作られてきた。宮廷舞踊はだいたい約1時間かかるので、それを1/4(約15分)か1/2(約30分)に短縮する。けれど、短縮するとどうしても辻褄が合いにくいところが出てくる。また、他人の手になる短縮版だと、その手法に賛同できない場合がある。というわけで、振付として納得できる完全版をきちんと上演したいと思うのだ。また、1時間かけて踊ることによって得られる没入の感覚というか三昧の境地は15分や30分の上演からは得られるものではない。ほとんど完全版で上演する人がいないからこそ、私は完全版で上演し続けたいなと思っている。
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3月に上演する「スリンピ・スカルセ」は私がジョコ女史から初めて習った完全版の宮廷舞踊曲で、思い入れが深い。ペロッグ音階ヌム調の音楽は瞑想的で、これを聞くと一気に雨季の夕方にレッスンをしていた頃の自分を思い出す。この曲にはレイエという動きが多い。レイエは辞書によると「(建物が)崩壊する」という意味で、倒壊していくように上体を折り、再び反対側に揺れ戻るような動きだ。大きな波のような動きにも見える。この曲には多く、またレイエではないが似たような動きも多いから、集中していないと動きが分からなくなることがある。私がスリンピに使われる動きで一番好きなのがこのレイエで、こんな動きを昔の宮廷人はなぜ思いついたのだろうか…と不思議に感じる。
「スカルセ」特有の部分はシルップにある。シルップは2人ずつ組になって戦う場面の後、負けた方が座る場面のこと。火山が鎮火している状態をシルップと言うように、音楽の音量も静かになる。このシルップの場面で、勝った方が衛星のように回転しながら負けた方の周囲を巡るのが美しい。ジョコ女史は自身が振り付けた「クスモ・アジ」という舞踊の中で、コモジョヨとコモラティという男女の神が廻るシーンでこの動きを使っていたし、スリスティヨ・ティルトクスモ氏の作品「キロノ・ラティ」でも、シルップのシーンで使われている。また、スラカルタ王家のムルティア王女が、父王パク・ブウォノXII世の80歳の記念式典のために振り付け、9人の王女で上演したブドヨ作品にも取り入れられている。実は、古典曲の中で魅力的な動きほど新作で使われることが多く、「スカルセ」のシルップ場面はそれくらい魅力的なので、実際に見ていただけたらなあ…と思っている。というわけで、堺までどうぞご来場ください!
●2023年3月11日、フェニーチェ堺・小ホール
『幻視 in 堺ー南海からの贈り物ー』公演
第1幕:
音楽「夜霧の私」(山崎晃男作曲): 静かな音がジャワへといざなう…
音楽「ババル・ラヤル」: 青銅打楽器の音色が力強く響く宮廷儀礼の曲
音楽「ガドゥン・ムラティ」: 柔らかい音色の楽器と歌から成る霊力のある曲
※ スラカルタ王家の儀礼映像(Dr.IGP Wiranegara,M.Sn)の上映と共に
第2幕:
宮廷舞踊「スリンピ・スカルセ」完全版
詳細➡ http://javanesedance.blog69.fc2.com/blog-entry-1095.html
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●2021年10月23日、堺能楽会館
『幻視 in 堺 ―能舞台に舞うジャワの夢―』公演
映像記録➡ https://www.youtube.com/watch?v=1Q4kTQbxwVE
2023年02月21日 (火)
3/11『幻視 in 堺 ―南海からの贈り物―』公演 第1部3曲目の「ガドゥン・ムラティ」では、実はナナンさんによるワヤンのシーンがあります。
最近、『まよかげ』 (京都芸術センター)やP新人賞2022観客賞受賞で大活躍のナナンさんが古典曲に合わせて自在に操るワヤンもぜひお楽しみに!

チケット予約はこちらから↓
https://forms.gle/bKWcVwVcwLcMRsZ5A
最近、『まよかげ』 (京都芸術センター)やP新人賞2022観客賞受賞で大活躍のナナンさんが古典曲に合わせて自在に操るワヤンもぜひお楽しみに!

チケット予約はこちらから↓
https://forms.gle/bKWcVwVcwLcMRsZ5A
2023年02月21日 (火)
『幻視 in 堺-南海からの贈り物―』公演で序曲として最初に演奏する「夜霧の私」(最初の5分ほどを演奏します)は現代曲ですが、シーンとしたジャワの夜の静寂に導いてくれるような感じの曲です。ジャワで一般的に儀礼の最初に演奏される曲よりも、ジャワの世界にいざなってくれるような気がしてこの曲を選びました。この後に演奏する「ババル・ラヤル」と「ガドゥン・ムラティ」という重い曲とも喧嘩しないです。
作曲者は、今回の公演に出演するガムラン音楽団体:ダルマブダヤの代表:山崎晃男(写真)氏で、2004年、ジャワ舞踊と舞踏の共演のため作曲されました。ダルマブダヤには私も1987年~1996年留学まで在籍していましたが、関西で・ジャワ・ガムラン草分けの団体です。

チケット予約はこちらから↓
https://forms.gle/bKWcVwVcwLcMRsZ5A
作曲者は、今回の公演に出演するガムラン音楽団体:ダルマブダヤの代表:山崎晃男(写真)氏で、2004年、ジャワ舞踊と舞踏の共演のため作曲されました。ダルマブダヤには私も1987年~1996年留学まで在籍していましたが、関西で・ジャワ・ガムラン草分けの団体です。

チケット予約はこちらから↓
https://forms.gle/bKWcVwVcwLcMRsZ5A
2023年02月11日 (土)
第1幕ではガムラン音楽を演奏しつつ、背後の幕にジャワのスラカルタ王家の儀礼の映像を映します。この映像をウィラネガラ氏に委嘱しています。氏はスラカルタ王家の先代当主:パク・ブウォノXII世(1945~2004在位)のドキュメンタリー映像『PAKU BUWONO XII - Berjuang Untuk Sebuah Eksistensi 』を監督されています。 2月5日にはパク・ブウォノXII世の王女と共に、南海の女王に祈りを捧げにパランクスモ海岸まで赴いてくださいました。
https://www.youtube.com/watch?v=Do0JBcKv8pk

https://www.youtube.com/watch?v=Do0JBcKv8pk

2023年02月09日 (木)
2月8日(水)18:00~、『幻視 in 堺―南海からの贈り物―』(3/11、フェニーチェ堺・小ホール)の本番約1か月前に行われる打ち合わせ。私、舞台監督、音響、照明、映像記録、の担当者が来て、ホールのスタッフと顔を合わせる。
2023年02月06日 (月)
公演 『幻視 in 堺 ―南海からの贈り物―』 出演者紹介
出演者はインドネシアに留学/研修渡航してガムラン音楽に本格的に取り組む日本人と、インドネシアで活躍ののち現在は日本に住むインドネシア人です。中核となるのは2009年から10年間、岸城神社(岸和田市)で毎年『観月の夕べ』公演を行ってきたメンバーで、2021年の公演『幻視 in 堺 ―能舞台に舞うジャワの夢―』でも再結集しました。今回初参加の演者もいます。名古屋から島根まで、中部~近畿~四国~中国地方に散在するメンバーが結集します。お楽しみに!
<ジャワ舞踊>
Batak: 冨岡三智
インドネシア国立芸術大学スラカルタ校留学

Gulu: 岡戸香里
インドネシア国立芸術大学スラカルタ校留学

Dada: Anita Sary
スラカルタ王家・元ブドヨ舞踊家

Buncit: Jeny Triani
スラカルタ王家・元舞踊家

※Batak(頭), Gulu(首), Dada(胸), Buncit(腹)というのはポジションの名称です。宮廷舞踊にはちゃんとポジションの名前があるのです。
<ガムラン演奏>
ダルマ・ブダヤ(山崎晃男、松田仁美、近藤チャコ、明日香郁子、松竹夏鈴、濱川普紀、Rizki Muhammad Said)、
ハナジョス(Rofit Ibrahim、佐々木宏実)、
岩本象一、西岡美緒、西田有里、Nanang Ananto Wicaksono、岸美咲、東山真奈美
ハナジョス
★ローフィット・イブラヒム(ハナジョス) photo: Yuhei Taichi
インドネシア国立芸術大学ジョグジャカルタ校卒業。

★佐々木宏実(ハナジョス)
インドネシア国立芸術大学ジョグジャカルタ校留学。

★山崎晃男(ダルマブダヤ、代表)

★松田仁美(ダルマブダヤ)
インドネシア国立芸術大学スラカルタ校留学。

★近藤チャコ(ダルマブダヤ)

★明日香郁子(ダルマブダヤ)

★松竹夏鈴(ダルマブダヤ)

★濱川普紀

★ Rizki Muhammad Said

★岩本象一
インドネシア国立芸術大学ジョグジャカルタ校留学

★西岡美緒
インドネシア国立芸術大学ジョグジャカルタ校留学

★西田有里
インドネシア国立芸術大学ジョグジャカルタ校留学。

★Nanang Ananto Wicaksono
インドネシア国立芸術大学ジョグジャカルタ校中退。
担当: デムン、ゲロン、手拍子・掛け声。間狂言での「ジャワの影絵から抜け出た風変わりな二人の男」のうちの1人。

★岸美咲
インドネシア国立芸術大学スラカルタ校留学

(協力)東山真奈美
出演者はインドネシアに留学/研修渡航してガムラン音楽に本格的に取り組む日本人と、インドネシアで活躍ののち現在は日本に住むインドネシア人です。中核となるのは2009年から10年間、岸城神社(岸和田市)で毎年『観月の夕べ』公演を行ってきたメンバーで、2021年の公演『幻視 in 堺 ―能舞台に舞うジャワの夢―』でも再結集しました。今回初参加の演者もいます。名古屋から島根まで、中部~近畿~四国~中国地方に散在するメンバーが結集します。お楽しみに!
<ジャワ舞踊>
Batak: 冨岡三智
インドネシア国立芸術大学スラカルタ校留学

Gulu: 岡戸香里
インドネシア国立芸術大学スラカルタ校留学

Dada: Anita Sary
スラカルタ王家・元ブドヨ舞踊家

Buncit: Jeny Triani
スラカルタ王家・元舞踊家

※Batak(頭), Gulu(首), Dada(胸), Buncit(腹)というのはポジションの名称です。宮廷舞踊にはちゃんとポジションの名前があるのです。
<ガムラン演奏>
ダルマ・ブダヤ(山崎晃男、松田仁美、近藤チャコ、明日香郁子、松竹夏鈴、濱川普紀、Rizki Muhammad Said)、
ハナジョス(Rofit Ibrahim、佐々木宏実)、
岩本象一、西岡美緒、西田有里、Nanang Ananto Wicaksono、岸美咲、東山真奈美
ハナジョス
★ローフィット・イブラヒム(ハナジョス) photo: Yuhei Taichi
インドネシア国立芸術大学ジョグジャカルタ校卒業。

★佐々木宏実(ハナジョス)
インドネシア国立芸術大学ジョグジャカルタ校留学。

★山崎晃男(ダルマブダヤ、代表)

★松田仁美(ダルマブダヤ)
インドネシア国立芸術大学スラカルタ校留学。

★近藤チャコ(ダルマブダヤ)

★明日香郁子(ダルマブダヤ)

★松竹夏鈴(ダルマブダヤ)

★濱川普紀

★ Rizki Muhammad Said

★岩本象一
インドネシア国立芸術大学ジョグジャカルタ校留学

★西岡美緒
インドネシア国立芸術大学ジョグジャカルタ校留学

★西田有里
インドネシア国立芸術大学ジョグジャカルタ校留学。

★Nanang Ananto Wicaksono
インドネシア国立芸術大学ジョグジャカルタ校中退。
担当: デムン、ゲロン、手拍子・掛け声。間狂言での「ジャワの影絵から抜け出た風変わりな二人の男」のうちの1人。

★岸美咲
インドネシア国立芸術大学スラカルタ校留学

(協力)東山真奈美
2023年02月06日 (月)
2023年2月5日、『幻視 in 堺―南海からの贈り物―』公演の無事を祈念するため、映像担当のWiranegara氏がスラカルタ王家パク・ブウォノXII世の長女であるGusti Kangeng Ratu Alitに付き従い、王家を守護する南海の女神(Ratu Kidul)のおわす海を臨むパランクスモ海岸にお祈りに行ってくださいました。その写真を現地より送ってくださったので、ここに掲載します。






2023年02月03日 (金)
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