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2014.2月の水牛「メナ・コンチャル」
今月の高梁悠治氏のサイト「水牛」に、「ジャワ舞踊作品のバージョン2『メナッ・コンチャル』」を寄稿しました。

水牛 http://www.suigyu.com/
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「メナ・コンチャル」カセット・レーベル

本文は以下に↓
ジャワ舞踊作品のバージョン 2「メナッ・コンチャル」冨岡三智

私が連続テーマで何か書こうとすると大体1回目か2回目で挫折するのだが、昨年11月号に続いてジャワ舞踊作品のバージョン2を書いてみたい。

「メナッ・コンチャル」はソロのマンクヌガラン王宮で作られた男性優形の舞踊で、ダマルウラン物語というジャワで作られた物語に登場する人物を描いている。簡単に言うと、戦いに出て死ぬ運命にある男性が恋に身を焦がす様を描いた作品で、いわゆるガンドロン(恋愛)物と呼ばれる男性の単独舞踊の1つだ。スラカルタのマンクヌガラン王家の舞踊家、ニ・ベイ・ミントララスによって作られた。マンクヌガラン王家といえば、ダマルウラン物語を題材に、ラングンドリヤンという女性だけで演じられる舞踊歌劇が作られたことで有名だ。「メナッ・コンチャル」もその歌劇の一場面が独立した形になっているので、男性舞踊だけれど女性によって踊られ、途中で踊り手が恋する姫への気持ちを切々と歌い上げるシーンがある。しかもその曲は、ジャワ人なら誰でも知っている名曲「アスモロドノ」(愛という意味)。宝塚歌劇のように、男装した麗人の美しい声を堪能しながら、歌詞のロマンチックな気分に浸れる舞踊で、いかにも王家らしい華やいだ雰囲気がある。

が、この作品は、一般的にマリディという舞踊家の再振付で有名で、カセットもロカナンタ社から市販されている。ただし、ちゃんと作者名はニ・ベイ・ミントララスだと明記されている(ちなみにレーベルの写真はマリディの娘)。マリディは結婚式か何かでこの作品を見て気に入り、二・ベイ・ミントララスに即、自分ならもっとうまく振り付けられるからリメークさせてほしいと頼んだらしい。マリディ自身がそう言っていたので間違いないだろう。当初、ミントララスにものすごく驚かれたらしいが(失礼な若造だと思ったのではなかろうか)、リメーク版は本人にも気に入ってもらえたとマリディは嬉しそうに語っていた。

マリディ版とミントララス版の最大の違いは、マリディ版ではサンパという曲(影絵芝居ワヤンでは、場面の転換、出陣や戦いの場面で使う)が「アスモロドノ」の曲の最後に追加され、踊り手が戦場に出立することを暗示しながら走り去る場面で終わっていること。ミントララス版では、普通の宮廷舞踊と同様に、最後は床に座って合掌して終わる。そして、歌いながら踊るために、振付は全体にかなりシンプルである。一方、マリディ版では踊り手は歌わない。その分、これでもかというくらい細部が細かい振付になっている(しかも絶えずバージョンアップを繰り返す人なので、毎年友達が習うたびに違う振付になっている)。つまり、マリディ版の演出では、劇的要素がいやが上にも強められ、振付自体でドラマを表現しているのだ。マリディの振付はどれも、とてもドラマチックな展開になる(たとえ元のストーリーがしょうもなくても)。

スラカルタにある国立芸大では、当初、マンクヌガラン王家で踊っていた教員が大学のカリキュラムに「メナッ・コンチャル」を導入したので、当初の芸大バージョンはかなりマンクヌガラン風だった。留学した私が芸大の先生から個人レッスンで習ったのは、このバージョンだった。当時はまだかなり初心だったので、授業についていけるように個人レッスンを受けていたのだが、授業で習ったのは全然違うバージョンだったので、私の頭は大混乱に陥り、結局試験でも古い芸大バージョンで押し通してしまった。実は、その当時、若手の教員がマリディから習ったものをカリキュラムに再導入したので、芸大バージョンがリセットされてしまっていたのだった。私はまだ見たことがないが、ガリマンも「メナッ・コンチャル」のアレンジを手掛けているらしい。それは、わりとあっさりしてマリディ版とは全然違うらしく、たぶん、オリジナルにより近いのかなと思ったりする。