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水牛「『物語』とマスコミ」
毎月寄稿している音楽家・高橋悠治氏のサイト『水牛』に、今月は「『物語』とマスコミ」を寄稿しました。佐村河内事件から、作家の自己演出とメディアについて思うことです。

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※バックナンバーも読めます。私は2002年11月からほぼ毎月寄稿しています。

本文は続きから
『物語』とマスコミ

佐村河内事件で気になったことはいくつもあるけれど、一番気になったのは、マスコミ、とくにNHKの『物語』を求めてやまない体質だ。佐村河内の自己演出のうまさも元々あるだろうけれど、マスコミがそれに乗っかったために、佐村河内も演出(虚言)のスケールをどんどん壮大にしていったと考えられなくもない。

私も多少はメディアで取り上げられたことがあるので(主にインドネシアで)、取材されてしゃべったことが編集されて違うニュアンスになってしまったという経験が少なからずある。新聞に完全に事実と違うことを書かれ、しかも私が詐称したように読めてしまうので、記事の訂正を求めたところ、「それでは、こちらのストーリーに合いません。」という返事が返ってきたことさえある!日本のメディアはインドネシアよりも水準が高いと信じたいが、今回の事件、マスコミの側にも佐村河内を通して語りたいストーリーがあらかじめあったはずだ。

実は、今回の事件を見ていて思い出したのが、平山郁夫の"赤とんぼ"事件である。おそらく知る人はほとんどいないと思うので、知りたい方は金山弘治『検証 平山郁夫の仕事』(1995年、秀作社)を読んでみてほしい。簡単に言えば、ある展覧会に平山が出品した作品の"赤とんぼ"のモチーフは、他の作家の作品の借用の恐れありという告発である。ここで金山は、平山の作家としての姿勢以外にNHKも批判している。というのも、この展覧会はNHKプロモーションの企画で、NHKが全国の視聴者65万通のアンケート結果をもとに「日本のうた」100曲を選び、その歌のイメージを代表的な画家に描かせたものという趣旨だったからだ。この展覧会は全国を巡回して入場料を売り上げ、出品作の画集を会場で販売していた。そして、この企画と連動して、NHKもまた平山郁夫へのインタビュー番組を作った。つまり、NHKが公共放送の名のもとに得たデータ(視聴者アンケート)と制作した番組はNHKプロモーションという企業の収益事業に協力する構図になっているのだ。佐村河内を取り上げたNHKスペシャルはフリープロデューサーの持込企画で、彼は番組関連本をNHK出版から出版している。つまり、視聴者アンケート利用こそなかったものの、ここでもNHKは関連企業の収益事業のために協力していたことになる。

この平山もまた、自己語りが少々大げさだった。シルクロードをモチーフにするのはいいとして、それが「文明源流行」だと言う。出世作の「仏教伝来」について「…啓示をうけたといえばいいのでしょうか。私が見つけだしたのではなく、向こうからその僧はやってきたのです」(金山p39)と言い、この絵を描く動機について語らない代わりに、その当時の貧窮した生活や、ひどく痩せ衰えていて絶体絶命の気持ちで絵を描いたということを語る(金山p45)。もっとも平山は本当の原爆被爆者だったので、絶体絶命の気持ちになったことはきっと何度もあったに違いない。ただ残念なのは、このような出世作についての平山の語りが、主語を佐村河内にしてもそのまま当てはまりそうなことなのだ。肉体と困窮の苦悩の中で、啓示を受けて作品ができるというストーリーは一緒だからだ。

金山は「このシルクロードという背景は、平山が自分自身を主人公にして演出したドラマである、と言うこともできる。貧しく、体の弱い一人の日本画家が、自己救済を求めて『仏教伝来』を描き、以後数えきれないほど中国や西域を取材して、文明源流行を続けているというドラマ、物語、幻想だ。彼はそれを一種のパテント(特許権)のごときものとして、素描、リトグラフその他を量産してきている。…彼が求道者のような外見を装い、それが彼の作品の『解説』の働きをしている、といったことが続いているのは、美術評論家、マスコミ、官僚、政治家などの積極的な支援があってのことだ。」(p78)と言うのだが、佐村河内の場合も、いわゆる「全聾キャラ」をパテントにして、求道者のような彼を積極的に賞賛するマスコミ、特にNHKの支援で有名になったと言える。

ところで金山という人は、1986年にNHKの日曜美術館が田中一村を貧窮の中で孤高の芸術を生んだ天才として取り上げたときも批判している(p79-80)。この例もまた、画家自身のドラマ演出と作品の関係という点で引き合いに出してきたものだ(p90)。こうやって見てくると、今までの事例でことごとくNHKが絡んでいる。佐村河内事件後にネットではNHKスペシャル番組「奇跡の詩人」疑惑を引き合いに出す人もいた。どうも、NHKの公正中立な公共放送を標ぼうするあり方そのものの中に、過剰な自己演出の物語を生み出す素地があるような気がしてならない。