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2002.12水牛アーカイブ「ジャワ・スラカルタの伝統舞踊(1)宮廷舞踊」
私は、毎月、高橋悠治氏のサイト『水牛』の「水牛のように」コーナーにエッセイを書いていますが、この執筆は2002年11月から始まりました。同サイトにも私のエッセイのバックナンバーが、「冨岡三智アーカイブ」に掲載されています。しかし、継続的に掲載されているのは2007年からで、2004~2006年の分は部分的にしか掲載されていません。私の手元にあるはずの記事原稿が長らく行方不明になっていましたが、このたび思わぬファイルから見つかりましたので、まだ『水牛』のアーカイブに未掲載の分をこちらに掲載していきます。

※ 以下、写真は複製禁止。
スリンピ、ブドヨの映像が、右のリンク集の 自分の映像集(宮廷舞踊) で見られます。どちらも完全版であり、またブドヨの映像は、以下の写真の公演の時のものです。




『水牛』 2002年12月号
ジャワ・スラカルタの伝統舞踊(1)宮廷舞踊


クラトン(宮廷)で生まれ発展した舞踊の種類には「ブドヨ」、「スリンピ」、「ウィレン」がある。個々について述べる前に、全体の特徴について簡単に述べよう。

クラトンでは舞踊は王に捧げるものとされる。すべての舞踊は合掌に始まり合掌に終わる。これは王に対して、また神に対して祈る行為である。クラトンの舞踊で大事なのは、踊り手が自己を表現することでなく、己を無にすることである。したがって顔の表情で何かを表現することはない。

これらの舞踊はすべて群舞で、しかも同一の衣装を着用する。振付はきわめて抽象的、象徴的である。全員が同じ振付を踊り、しかも東西南北の4方向に同パターンの振りを繰り返す。スリンピやウィレンでは踊り手(偶数人数)はシンメトリーなフロア・パターンの数々を描き、そこに調和が表現される。背景となる物語はあったとしても、舞踊自体から感じ取ることはほとんどできない。完全な長さで踊ると約1時間かかり、その間に踊り手は瞑想しているような状態になる。

ブドヨ

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9人の女性による群舞で、儀礼的な性格が強い。9という数字は人体の9つの穴を暗示しているとも、また9人の描く様々なフロア・パターンは星の運行を表しているとも言われる。

ブドヨの本曲であるブドヨ・クタワンは、王と南海の女神であるラトゥ・キドゥル(代々の王を守護する)との出会いを描いており、年に一度王の即位記念日にのみ踊られる神聖な舞踊であり、いまもなお門外不出で様々なタブーがある。かつてクラトンでは、やはりブドヨと呼ばれる踊り手が幼少からブドヨを踊るためだけにクラトンで隔離して育てられていた。
一般に言うブドヨとは、この本曲に代えてブドヨ達が普段練習するために作られたものである。10数曲あったが廃れ、現在は3曲しかクラトンに残っていない。

ブドヨ独特の演奏形態として、楽器・クマナの使用が挙げられる。ティン、トン、ティン……と1対のクマナを交互に叩く音が延々と繰り返される中、男女の斉唱・ブダヤンが続く。一般的なフル編成ガムランはここでは使用されない。ブドヨ・クタワンでは全曲1時間半にわたってクマナを使用するが、一般のブドヨでは部分的に使われるか、または使われない。(古いスリンピの一部で使われるものがある。)南海の女神はクマナの音が好きなので、みだりに演奏してはいけないとクラトンの人は言う。なお、斉唱はスリンピでも使われるが、ブドヨという言葉に由来してブダヤンと呼ばれている。

スリンピ

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4人の女性による群舞である。王女達の精神鍛錬のために、また美しい所作を身につけるために作られた。王女としての心得を説く歌詞を持つものもある。現在10曲がクラトン内外で伝承されている。

スリンピの特徴は戦いを描いていることである。ピストルや弓での戦いの後、シルップと呼ばれる静かでゆったりしたテンポの場面になる。負けた2人の踊り手が座り、他の2人が踊る。その後元のテンポに戻ってまた戦いが繰り返され、今度は違う2人が座る。つまり戦いからシルップに至る場面は2回あり、2回とも全く同じ振付である。これは現実の戦いではなく、プラン・バティン(内面の戦い)を描いているという。交互に座るのはプラン・バティンには勝ち負けがないからだという。ピストル(オランダの影響)は実際に手に持つこともあるが、象徴的にサンプール(腰に巻いた布)の扱いで表すことが多い。またシルップの場面は彼岸を、その他の部分は此岸を象徴しているともいう。

(注)
戦いの場面~シルップという構成によらないスリンピが2曲ある。どちらも古い曲であり、これをどう考えるかについては今後の課題としたい。

ウィレン

ウィレンは2人または4人(それ以上の偶数人数によることもある)の男性によって踊られる舞踊で、優型と荒型の両方がある。槍や剣、弓矢などの武器を持ち、戦いの練習や兵士の勇壮さを描いている。スリンピ同様現実の戦いを描いている訳ではなく、勝ち負けもない。

しかしウィレンでも、プティラン(舞踊劇の一部から抜き出した作品、科白を伴う)の影響を受けて登場人物が設定されているものがある。それらはかつてはウィレン・プティランと呼ばれたという。その例としてカルノ・タンディンが挙げられる。これにはカルノとアルジュノという兄弟が敵味方に分れて戦い、カルノが敗れるという物語が背景にあり、踊り手も両キャラクターの衣装をつける。しかし振付としてはウィレンであって物語を説明している訳ではない。そのためウィレンとして同一衣装をつけて踊られることもある。



ブドヨ…   私の自主公演。2007年6月、中部ジャワ州立芸術センターにて
スリンピ… 私の自主公演。2006年11月、インドネシア国立芸術高校スラカルタ校にて
いずれも複製禁止。