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2005.06水牛アーカイブ「昼間の停電に思う」
私は、毎月、高橋悠治氏のサイト『水牛』の「水牛のように」コーナーにエッセイを書いていますが、この執筆は2002年11月から始まりました。同サイトにも私のエッセイのバックナンバーが、「冨岡三智アーカイブ」に掲載されています。しかし、サイトのデザイン変更もあって、今のところは大体2007年頃からの分しか移行されていません。それで、『水牛』のアーカイブに未掲載の分をこちらに掲載していくことにします。




『水牛』2005年6月号
昼間の停電に思う


珍しいことに、先日、5分間くらいだったが停電があった。ちょうど停電になった時には駅前商店街の西にあるお店に買い物に来ていた。別に地震も雷もあったわけではなく、五月晴れという言葉がぴったりくる日の、正午頃のことである。お店を出るところで突然電気が消え、奥に引っ込んだ店主がまた表に出てきた。辺りの店を見回しても停電している。正午とはいえ、商店街のウィンドーから照明が消えると少々寂しい。商店街を東へ100mばかり歩いていると、通り沿いの店の人がわらわらと表に出てきて、停電を確認し合っている。停電は自分の家だけかしらん、と皆思うらしい。昔じゃあるまいしねえ、と言っている角の煙草屋のおばあちゃんの声も聞こえる。商店街端の交差点に出る。ここから向こうの垣内(かいと)も停電しているようだ。インドネシア風に言うと、隣のRTも停電している。隣のRTにある銀行からお姉さん達が何人も表に出てきて、こちらのRTをうかがっている。さらに驚いたのは、交差点の信号まで止まっていること。停電では信号機も止まるなんて、今まで考えたこともなかった。

停電の商店街を歩きながら、インドネシアのことを思い出していた。インドネシア(私がいたソロ)ではよく停電したので、私もロウソクを買い置きしていたし、留学生で一足お先に帰国する人の置き土産の中には、たいていろうそくがあった。もっともロウソクが必要になるのはひどい大雨や雷で停電する夕方から夜の間だけだが、じつは普段の昼間などにもしょっちゅう、短時間、あるときは何時間か、よく停電しているのである。冷蔵庫を開けてみて、あれ停電してる、と何度思ったことか。また、芸術大学の授業が停電で中断したことも何度かある。舞踊科の実技の授業ではカセットをかけて練習する。始めのうちは先生が説明したりちょっと見本を見せたりしていても、停電が長引くと困ってしまう。

けれど、モスクのアザーンが停電で聞こえなくなるのは(不謹慎ながら)嬉しい。これはインドネシアの音風景(バリなど非イスラム圏は除く)を特徴づけるものだと言っていい。アザーンは1日5回のお祈りの時刻を知らせるモスクからの呼びかけで、スピーカーで一帯に響くように呼びかける。異教徒にとってはぎょっとするような大音量で、特に慣れないうちは、明け方これで目が覚める。アジアのイスラム圏にスピーカーを売り込んだのは日本の音響会社だという話を聞いたことがあるが、本当だとしたらハタ迷惑なことをしてくれたものだ。スピーカーが普及する前はイスラム導師がモスクの上から大声で呼びかけていたらしいが、町の小さなモスクならそれで十分だという気もするし、その方が宗教的な風情もあるだろうに。

話がそれた。ソロのような地方都市だけではなくて、首都ジャカルタでも停電はあるようだ。昨年、ジャカルタのあるお役所に夕方行ったら、停電していて弱ったことがある。役所に着くと、大勢の人がいっせいに階段から下りてくる。聞くと、30分くらい停電していて仕事にならないので、いつもより早い時間だが退社するという。えっと思ってアポを取った人に携帯電話で連絡する。その人は退社せずに待っていてくれた。が、待ってくれている以上、行かねばならない。降りてくる人とぶつかりながら、狭い階段を9階まで必死で駆け上がったが、ジャカルタのような都市でも停電はあるのかと驚いたことだった。

いまや日本では、普段の日に停電するなどと誰も予期しないだろう。駅前商店街で停電して家に戻り着いたとき、(実は私の家もその並びにある)、「電気が消えると、人間て、思わず外に飛び出すもんやねえ。」と言った母の言葉がなんだかおかしかった。停電から1時間ほどたってから電力会社の車が廻ってきて、「さきほどは、突発的な事故停電によりご迷惑をおかけしまして……」とアナウンスしていた。そうか事故か、と原因を知るだけで、なんとなくほっとする。どこかで電気工事をしていて、誤って電線を切ったのだろう。こういうアナウンスはインドネシアでは全くなかった。それだけ停電が常態化しているのか、そこまで(過剰に)親切にする習慣がないのか。逆に言えば、日本では停電はアナウンスしないといけない異常事態ということにもなるのだろう。

珍しい停電に遭遇して、日本の電力は安定して供給されているということも、あらためて思い起こす。インドネシアでは、電圧が日本ほど一定に保たれていないみたいだ。220vとあっても、うまく電力がコントロールできないとそこからはみ出すことがあり、だから電気製品がよく壊れるのだという。冷蔵庫だとかパソコンだとか、高価な電化製品を使うなら必ず電圧安定装置(スタビライザー)を使うこと、直接コンセントにさしては駄目だよ、と、パソコンが壊れてからアドバイスされた。そういえば大学のパソコンでは必ずスタビライザーを使っている。テレビだけはブラウン管を通るからスタビライザーを使わなくても大丈夫、と言う人がいたが、それが正しいのかどうか私は知らぬ。
 

最後に余談だが、インドネシアでパソコンを使っている時に、近くで雷が落ちたことがある。外は雨でゴロゴロと遠くで低く轟く音がしていたが、あまり気にならないくらいだった。私は床に直に座って、ラップトップのモバイルパソコンを、文字通り膝の上にのせて使っていた。そこに急にものすごい落雷音がして家の電気が消え、同時にラップトップからしびれるような衝撃がきて、思わずそれを放り投げてしまった。これが感電か、雷で一気に電圧が高まるんだなあ、と体感したことだった。